夫の親を介護した妻に報いるための制度「特別寄与料制度」とは

お世話になります。
インキュベクスの青井です。

本日もケアーズ税理士事務所の鈴木佳美先生のご協力の元、相続の基礎知識をお伝えしていきます。

本日のテーマは、相続人間の公平を図るための大切な制度である「寄与分」そして2019年から新設された「特別寄与料制度」についてです。

普段、なかなか耳にすることのない言葉ですが、実は、相続で「寄与分」を巡ってもめる原因となることも多く、ぜひ憶えておいていただきたい制度です。(※私も知りませんでした。)

寄与分とは?

鈴木先生、本日もよろしくお願いします。

まず、本日のテーマである「寄与分」まず、どういう制度なのか説明していただいてもよろしいでしょうか。


よろしくお願いします。

寄与分とは、故人に対して何かと尽くしてきた相続人と、他の相続人との公平さを図るために設けられた制度です。

ご家族で相続が発生した場合には、残された相続人の間で遺産分割協議を行います。

例えば、父親が亡くなり、相続人が子供3人の場合、通常は、父親が残した財産は、子供3人がそれぞれ3分の1ずつ相続することになります。

しかし当事者である子供たちの中には、

「自分は、何年も自分の親の介護をしてきた」

「自分は、親の事業を引き継ぎ、財産を増やした」

などを理由に自己の取得分を増やすことを主張することは当然想定されますよね。


それは確かに主張したくなりますね。


このような場合、被相続人の生前に被相続人に対して何らかの貢献をしてきた場合、民法904条(寄与分)にのっとり、遺産分割において自分の所得分を増やすことが認められてはいます。

寄与分がある相続人は、法定相続分プラス相続財産から寄与分の額が上乗せされます。


その制度を「寄与分」というのですね。
知りませんでした。


「寄与分」を受ける資格がある人とは

この「寄与分」を受ける資格がある人を「寄与分権者」といい、原則として「相続人」に限定されています。ですので、相続権を持っていない内縁の妻は、寄与分を主張することができません。

また例えば、亡くなった父親に対して介護で貢献したご長男の奥様は、相続人ではないので「寄与分」は、認められません。


でも介護という点からは、この奥様がこの義理のお父様に一番貢献されていますよね。


そうなんです。近年高齢化が進み、介護が必要な方が沢山いらっしゃいます。

しかも親御さんの面倒を見ているのがご長男のご家族で、その奥様がご自宅での療養介護に貢献しているというケースは、普通に多いと思います。


そうですね。


大変な介護で一番貢献をした(ご長男)の奥様が一切「寄与分」が認められないというのは、かえって公平の観点に反するということで、新たな制度が創設されました。


それは、よかったです。


相続人以外の被相続人の親族について、一定の要件のもとで、相続人に対して金銭請求をすることができる制度が令和元年の7月1日に施行されました。

これを「特別寄与料(民法1050条)」制度と言います。

この制度によって、被相続人の親族についても、「特別寄与料」の支払いが請求できるようになりました。


令和元年の7月1日…つい最近ですね。


ちなみにこの制度における親族の範囲については、以下のように規定されています。

被相続人の親族の範囲(民法725条)

・6親等内の血族

・配偶者

・3親等内の姻族

具体的には、配偶者の連れ子、甥、姪、甥の子や孫、姪の子や孫、従兄弟、従兄弟の子や孫、はとこ(又従兄弟)なども親族となります。


なるほど。ちなみに元々の相続人は、ここには、入らないと。


そうです。相続人は、寄与分権者なので、この特別寄与者からは除外されます。


わかりました。


「特別寄与料」が認められることは難しい

高齢化社会が進むにつれて今後、病気や障害によって体が不自由な被相続人のお世話・介護をしたと主張される相続人以外の方が増えていくと思うのですが、この「特別寄与料」は、どうのような方法で算出されるのですか?


はい。何を基準にいくらと算定するのか、実は、これがとても難しいです。「特別寄与料」を認めてもらうには様々な要件を満たす必要があり、これがかなり高いハードルとなっています。


難しいんですね。


はい、この「特別寄与料」が認められるのは、相続人の寄与分の場合と同様に「特別な寄与」がある場合です。

もっと詳しく言うと、被相続人と親族の身分関係に基づいて、「通常期待されるような程度を超える貢献」である必要があるんです。


通常期待されるような程度を超える貢献・・・わかりにくい表現ですね。


「特別寄与料」の前提となっている「寄与分」の請求が認められるのは、以下の例のような特別な貢献をし、それにより相続財産が維持・増加していることを証明しなければなりません。

① 被相続人の事業に関する労務の提供

被相続人である母が営む農業を、相続人である息子が、他に仕事をせずに無給で長期間手伝ったなど

② 被相続人に対する財産上の給付

被相続人である父の施設入所費用3000万円を、相続人である娘が全額援助した(※事業に関連しないものも対象)

③ 被相続人の療養看護

被相続人である重篤な病気の母の療養看護を、相続人である娘が仕事を辞めて長期間努めたなど

①~③までを詳しく説明すると、とても長くなってしまいますので今回は、「③ 被相続人の療養看護」に絞って「特別寄与料」が認められるケースお伝えしますね。


わかりました。


被相続人の療養看護で「特別寄与料」が認められるケースとは

③の場合、「介護保険サービスなどの費用をほとんどかけずに、付きっ切りで在宅介護をした場合」などが考えられます。

この場合の「特別寄与料」が認められるケースは、以下の要件をすべて満たす必要があります。

(1)介護に費用をかけず、夫の親の財産を減らさなかった
(介護保険サービスなどをほとんど利用せず在宅介護を行った)

(2)いつでも介護に応じられる環境だった
(夫の親と同居もしくはそれに準じる場合)

(3)夫の親から報酬を受けなかった

(4)最低1年以上介護を行った


(1)~(4)をすべて満たす必要があるとは、かなりハードルが高いですね。特に(1)の介護保険サービスを利用しないって普通は、考えられない気もしますが・・・


そうですね。例えば、夫の親が身内以外の人に介護をしてほしくないと介護保険サービスを拒むケースの場合は、妻が介護を一手に引き受けざるをえなくなります。


なるほど・・・でも介護保険サービスを利用しての通常の介護でも介護する側の奥さんにとっては、とても負担が大きいですよね。


その通りです。しかし、通常の介護は扶養義務の範囲内とされ、特別寄与料の対象にはならないんです。

もちろん夫の親が有料老人ホームなどに入居していて、奥様が毎日訪問してお世話をしたとしても特別寄与料の対象にはならないんです。


「特別寄与料」の算出方法とは

なるほど、この「特別寄与料」が認められることが難しいことはよく理解できました。

「特別寄与料」の算出方法は、どのように行うのですか?


上記の要件を何とかクリアして「特別寄与料」が認められそうな場合は、以下の計算式で算出します。

請求額=「介護保険における介護報酬基準の定める報酬相当額(A)」×「療養看護日数(B)」×「裁量割合(C)」

という計算になります。

(A)は、同等の介護保険サービスを看護・介護の資格を有している人が行った場合の1日当たり報酬相当額です。

(B)は介護をした日数です。

これに(C)の裁量割合として0.5~0.8を掛けます。

裁量割合を掛けるのはプロが介護をした場合と親族が介護をした場合との調整のためです。

例えば・・・(要件をクリアした状態で)お嫁さんが義理のお母様を約2年半介護をしたとします。

報酬相当額=1日当たり5000円、介護日数=900日間、裁量割合を0.7とした場合、

請求額=5000円×900日×0.7=315万円となります。


なるほど介護した日数分の報酬をこのように算出するんですね。


私が女性だから言うこともありますが、色々食事の面倒や、洗濯や、あるいは排泄や、それが夜中に起きたり、あるいは朝方起きたりなどすると、その日々の付き添いの介護っていうのは、本当に色々なことが発生します。

ですので「特別寄与料」を認めてもらうためには、「○月○日、○時から○時までこのようなお世話をした」といった介護日誌を付けておくことも大切です。


「特別寄与料」を認めてもらうってかなり大変なんですね。


そうですね。本日お話させていただいたように認定の要件が厳しく、受け取れる額も限定的です。

ただこれまで夫の親を介護した妻に報いるための制度というものはなかったので、「特別寄与料」が出来ただけでも大きな前進だと一定の評価はされています。

また「特別寄与料」は、特別寄与者が弁護士と直接話し合いをして受け取ることが原則です。協議がまとまらない時は、家庭裁判所に手続きを申し立てることになります。

実際に利用を検討する際には弁護士などこの分野に詳しい専門家に相談することをお勧めします。


義理の親の介護は、本当に大変だと思います。今後多くの方がこの制度を利用できるといいですね。

今回お伝えした「特別寄与料」についてご質問がある方は、お気軽にお問い合わせください。

鈴木先生、本日は、貴重なお話ありがとうございました。

お気軽にお問い合わせください

相続について悩まれている、詳しく話を聞きたいという方は、下記フォームよりお問い合わせください。

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