円仁会株式会社の長谷川です。

前回、介護施設の職員教育を難しくする要因として、「誰でも受け入れる」という経営について書きました。

入居者の幅を広げれば、現場で対応するケースも増えていきます。

では、入居対象者をある程度明確にしたうえで、要介護5のような重度の方を受け入れる場合はどうでしょうか。

「重度者を受け入れれば、結局は職員教育が難しくなるのではないか」

そう考える方もいると思います。

私は、必ずしもそうではないと考えています。

重度者を受け入れることと、職員教育が難しくなることは、同じではありません。

重要なのは、

「どこまでを職員に任せ、どこからを仕組みや専門職で支えるのか」

を施設側で決めておくことです。

要介護5の方であれば、移乗、排泄、食事、入浴など必要な介助は増えます。

夜間の見守りや認知症への対応、医療職との連携など、求められることも多くなります。

しかし、これらをすべて職員一人ひとりの経験や判断に任せる必要はありません。

ここを整理することが、重度者を受け入れる施設の職員教育を考えるうえで重要になります。

重度者を受け入れること自体が問題なのではない

介護施設の経営では、

「要介護5の方を受け入れると、現場が大変になる」

という考え方があります。

確かに、重度の方になれば介助量は増えます。

ただ、ここで分けて考えたいことがあります。

それは、

「仕事が増えること」と「仕事が複雑になること」は別だということです。

例えば、移乗の方法、食事介助の手順、排泄確認のタイミング、報告が必要な状態変化、夜間の対応など。

こうした内容を整理しておけば、職員が毎回ゼロから考える必要はありません。

重度者だから仕事は増える。

しかし、仕事を整理できれば、教育まで複雑になるとは限らない。

ここは介護施設の経営を考えるうえで押さえておきたいポイントです。

「覚えること」と「判断すること」を分ける

重度者を受け入れる施設で重要になるのが、

「覚えてもらう仕事」と「判断してもらう仕事」を分けること

です。

例えば食事介助であれば、姿勢や介助方法など、基本的な部分は施設として整理できます。

一方で、

  • 「いつもと様子が違う」
  • 「食事中に状態が変化した」
  • 「誤嚥の可能性がある」

といった場面では、経験や専門的な判断が必要になります。

ここまでを新人職員にすべて任せる必要はありません。

どこから看護師へ報告するのか。

どこから管理者へ相談するのか。

緊急時には誰が判断するのか。

この線引きを決めておく。

そうすれば、新人職員は「すべて自分で判断しなければならない」という状態から解放されます。

教育する側も、新人にすべてを教え込むのではなく、

「まずはここまでできるようになってもらう」

という教育ができます。

すべてをマニュアルにする必要はない

ここで、標準化について一つ注意したいことがあります。

介護の仕事をすべてマニュアル化すればいい、という話ではありません。

同じ要介護5でも、身体の状態や認知症の程度、生活歴、ご本人やご家族の希望は違います。

だからこそ、

「個別性が必要な部分」と「共通化できる部分」を分ける。

これが重要です。

例えば、利用者との関わり方や生活上の希望には個別性があります。

一方で、

  • 報告の基準。
  • 緊急時の連絡方法。
  • 夜間の対応手順。
  • 記録の方法。
  • 看護師へつなぐ基準。

こうした部分には、施設として共通のルールをつくることができます。

介護施設の標準化とは、利用者への対応をすべて同じにすることではありません。

職員が迷わなくていい部分を、あらかじめ施設側で決めておくことです。

受け入れる人が決まれば、教育する内容も決まる

そして、前回の記事から今回につながる大きなポイントがここです。

職員教育を考える前に、

「この施設は、どのような方を受け入れる施設なのか」

を決める必要があります。

例えば、

  • 要介護5まで受け入れる。
  • 医療的な支援はここまで対応する。
  • 夜間の対応はここまで。
  • 認知症の方は、この条件で受け入れる。
  • こうした基準を施設として持っておく。

そうすると、必要な教育が見えてきます。

要介護5を受け入れるなら、移乗や排泄、食事介助などの教育が必要になる。

医療的な支援が多いなら、看護師との連携について教育する。

認知症の方を多く受け入れるなら、認知症への対応を教育する。

つまり、

「誰を受け入れるか」が決まらなければ、「何を教えるか」も決まりません。

必要な人材、資格、経験、教育期間、研修内容も、入居者像から逆算できます。

だから私は、

入居対象者を決めることは、職員教育の設計を決めることでもある

と考えています。

「何でも受け入れる」から、現場の判断が増えていく

前回の記事でも触れたように、「できる限り誰でも受け入れる」という方針には、入居率を高められるというメリットがあります。

しかし、その一方で、現場にはさまざまなケースが積み上がります。

  • 要介護5の方。
  • 医療依存度の高い方。
  • 認知症の方。
  • 障がいのある方。

それぞれで対応が違えば、職員が覚えることも増えます。

さらに、対応方法が決まっていなければ、

「この場合はどうするのか」

「看護師に相談するべきなのか」

「夜間ならどうするのか」

といった判断まで職員に求めることになります。

経験のある職員なら対応できるかもしれません。

しかし、新人には難しい。

そこでベテラン職員に確認する。

ベテランの仕事が増える。

新人はいつまでも自信を持てない。

こうして、教育の負担がさらに大きくなっていきます。

だから経営者が考えるべきなのは、

「新人をどう教育するか」だけではありません。

「新人が、どれだけ判断しなくても仕事ができる環境をつくれるか」

です。

重度者を受け入れるなら、教育を「人」から「仕組み」へ

重度者を受け入れることに反対しているわけではありません。

むしろ、重度の方を受け入れるのであれば、現場の経験だけに頼らない運営が必要です。

新人が入るたびにベテラン職員が一から教える。

管理者がその都度、個別の判断をする。

この状態では、職員が増えるほど教育する側の負担も増えてしまいます。

だからこそ、

「誰が教えても、一定の水準まで育てられる状態」

をつくることが重要です。

もちろん、すべてをマニュアルにする必要はありません。

共通化できる業務はルールにする。

判断が必要な場面は、相談先や判断者を決める。

個別性が必要な部分は、専門職や担当者が対応する。

この整理ができれば、教育の中心は「経験を伝えること」から「決められた仕事を身につけてもらうこと」へ変わっていきます。

これは、単に新人教育を楽にするためだけではありません。

優秀な職員がいるから回る施設ではなく、一定の仕組みがあるから安定して回る施設に変えていくためです。

強い施設は、職員の頑張りだけに頼らない

介護施設は、人が働く場所です。

だから、職員の経験や努力は当然重要です。

ただ、経営者として考えなければならないのは、

「優秀な職員がいるから回る施設」から、「仕組みがあるから安定して回る施設」へ変えていくこと

です。

優秀な職員が休んでも回る。

ベテランが退職しても教育を続けられる。

新人が入っても一定の水準まで育てられる。

施設が増えても、同じ考え方で運営できる。

そこまで考えて、初めて「仕組み化」と言えるのではないでしょうか。

前回の記事で取り上げた「誰でも受け入れる」という経営は、入居率だけを見れば魅力的です。

しかし、介護施設は入居者を入れれば終わりではありません。

その方を毎日どう支えるのか。

そのためにどんな職員が必要なのか。

どう教育するのか。

どこまでを施設の仕組みにするのか。

そこまで含めて考える必要があります。

入居率を上げることと、施設を安定して運営することは、同じではありません。

だからこそ、経営者が「誰を受け入れるか」を決める。

そのうえで必要な業務を整理し、標準化できる部分を仕組みにする。

専門的な判断が必要な部分は、適切な職種につなぐ。

そして、その仕組みに合わせて職員を育てる。

この順番ができていれば、要介護5のような重度者を受け入れることも、「教育が大変だから無理」という話にはなりません。

むしろ、重度者を受け入れるからこそ、何を標準化し、どこを専門職に任せるのかを明確にできます。

職員に頑張ってもらうことを前提にするのではなく、職員が力を発揮できる環境を経営者がつくる。

私は、それが介護施設を安定して運営していくために必要な考え方だと思っています。

そして、ここまで施設の運営を整理すると、もう一つ重要なことに気づきます。

それは、職員教育にかかっている時間も、施設にとっては「コスト」だということです。

ベテラン職員が新人教育に使う時間。

新人が一人で仕事を任せられるようになるまでの期間。

教育がうまくいかず、早期退職が起きた場合の採用・教育コスト。

管理者が現場の個別判断に使っている時間。

こうしたものは、損益計算書に「教育費」としてそのまま表れるわけではありません。

しかし、確実に施設の経営資源を使っています。

では、職員教育を仕組み化して、この「見えないコスト」を減らすことができたら、施設の利益はどのくらい変わるのでしょうか。

職員を一人早く戦力化できたら。

ベテラン職員の教育時間を減らせたら。

離職を一人減らせたら。

管理者が現場対応に追われる時間を減らせたら。

それは、単なる「職員が楽になった」という話では終わりません。

施設の生産性と収益性の問題になります。

次回は、ここをもう一歩踏み込んで考えます。

「職員教育を簡単にすると、なぜ施設の利益まで変わるのか」

職員教育にかかる時間を「人材育成」ではなく「経営コスト」という視点から捉え直し、教育の仕組みが施設の収益にどのようにつながっていくのかを考えてみたいと思います。

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