
円仁会株式会社の長谷川です。
介護施設の運営に関わっていると、同業の経営者様から「職員がなかなか育たない」という相談を受けることがあります。
- 新人が仕事を覚えるまでに時間がかかる。
- ベテラン職員に教育の負担が集中する。
- せっかく採用した職員が、仕事を覚える前に辞めてしまう。
こうした問題が起きると、多くの介護施設では「職員教育をもっと充実させよう」と考えます。
- 研修を増やす。
- マニュアルを作る。
- 教育担当者を決める。
もちろん、どれも必要な取り組みです。
ただ、事業責任者として現場を見ていると、それだけでは解決しないケースも少なくありません。
私がむしろ見直したほうがいいと思っているのは、
「職員が覚えなければならない仕事そのものが、多くなりすぎていないか」
ということです。
介護施設の人材不足が続く中で、採用や教育を強化することは重要です。
しかし、その前に職員が働く環境そのものを整理することも、施設経営では欠かせないと感じています。
「誰でも受け入れる」が現場を難しくする
住宅型有料老人ホームなどでは、
「どんな方でもご相談ください」
「できる限り受け入れます」
という方針を掲げている施設があります。
入居者やご家族からすれば、とても頼りになる施設です。
経営側から見ても、入居相談を断らないことは稼働率を上げるうえで魅力があります。
しかし、現場の職員からすると話は少し変わります。
- 要介護5の方。
- 医療依存度の高い方。
- 認知症の方。
- 障がいのある方。
こうした方を幅広く受け入れること自体が問題なのではありません。
問題は、入居者ごとに対応方法が大きく異なり、その判断を職員個人に任せてしまうことです。
「この場合は介助していいのか」
「看護師に報告したほうがいいのか」
「夜間にこの状態になったらどうするのか」
「家族には誰が連絡するのか」
こうした判断が一つひとつ職員に委ねられると、経験のある職員は対応できます。
一方で、新人職員は迷います。
そして、分からないことがあればベテラン職員に聞くことになります。
結果として、教育する側の負担が増えます。
新人側も「分からないまま仕事をしている」という不安を抱えます。
この状態が続けば、施設全体が忙しくなっていきます。
つまり、入居者の受け入れ方が、介護施設の職員教育や人材育成の難しさにまで影響するということです。
教育を難しくしているのは「新人」ではない
現場で新人が育たないとき、私は「新人の能力」に原因を求めすぎないことが大切だと考えています。
なぜなら、同じ新人でも、仕事が覚えやすい施設と覚えにくい施設があるからです。
例えば、
「この状態なら、この対応」
「この変化があれば、看護師へ報告」
「夜間は、この基準で対応」
「このケースでは、家族へ連絡する」
という基準が決まっている施設なら、新人はその基準を覚えていけば仕事ができます。
一方で、
「その人によって違うから、その場で考えてください」
という状態では、覚えるべきことが一気に増えます。
これは新人にとってかなり大きな負担です。
つまり、職員教育の問題に見えて、実は**「仕事の設計」の問題**であることがあります。
介護施設の経営者が人材育成を考えるとき、職員に何を教えるかだけではなく、職員がどれだけ判断しなければならない仕事になっているのかを見る必要があります。
重度者を受け入れることが問題なのではない
ここは、介護施設の経営を考えるうえで誤解してほしくないところです。
「教育が大変だから、重度の方は受け入れないほうがいい」
という話ではありません。
むしろ、重度者を受け入れる施設だからこそ、運営の標準化が必要になります。
例えば、要介護5の方を受け入れるのであれば、その方に必要な支援を整理する。
- 身体介護では何が必要なのか。
- 夜間にはどんな対応が必要なのか。
- どのような変化があれば看護師へ報告するのか。
- 緊急時には誰が判断するのか。
- 家族への連絡はどのように行うのか。
こうしたことを整理しておけば、すべてを職員個人の経験や判断に任せる必要がなくなります。
重要なのは、
「重度者を受け入れること」
と
「現場を複雑にすること」
は同じではない、ということです。
重度者を受け入れながら、職員が迷わず働ける介護施設をつくることはできます。
そのために必要なのが、運営の標準化です。
個別性と標準化を分けて考える
介護の仕事は、一人ひとり違います。
すべてをマニュアル通りに進めることはできません。
だからこそ、私は「全部を標準化しよう」と考えるのではなく、
「個別性が必要な部分」と「標準化できる部分」を分けることが大切だと思っています。
例えば、利用者との関わり方や生活上の希望には個別性があります。
しかし、
- 報告の基準。
- 緊急時の連絡方法。
- 夜間の対応手順。
- 記録の方法。
- 看護師へつなぐ基準。
こうした部分には、ある程度の共通ルールを作ることができます。
ここを整理するだけでも、職員が自分で判断しなければならない範囲はかなり減ります。
そして、職員が判断する範囲が整理されれば、新人教育も行いやすくなります。
「このケースではこうする」
「ここから先は看護師に相談する」
という基準が明確だからです。
介護施設の標準化とは、利用者一人ひとりへの対応を同じにすることではありません。
職員が迷わなくていい部分を、あらかじめ施設側で決めておくことです。
職員教育の前に、施設の「受け入れ方」を決める
事業責任者として施設運営を考えるとき、私は教育だけを切り離して考えないようにしています。
どんな人を受け入れるのか。
その人にどんなサービスを提供するのか。
そのために、どんな職員が必要なのか。
職員には何を覚えてもらうのか。
どこまでを標準化するのか。
ここまでつながって初めて、教育の仕組みができます。
逆に、この前提が決まっていないまま、
「新人教育を強化しよう」
「研修を増やそう」
「マニュアルを作ろう」
と進めても、現場ではなかなか定着しません。
なぜなら、そもそも「何を覚えてもらうのか」が整理されていないからです。
だからこそ、介護施設の経営者には、教育の前に「どんな施設にするのか」を決めてほしいと思っています。
経営者が決めるべきなのは「誰でも受け入れる施設」なのか
介護施設の経営では、入居者を集めることが重要です。
しかし、入居率だけを見て「できる限り誰でも受け入れる」という方針にすると、その後の現場運営に大きな負担がかかることがあります。
- 入居者が増える。
- でも、職員が対応できない。
- 教育の負担が増える。
- ベテランに仕事が集中する。
- 新人が育たない。
- 離職する。
そして、また採用が必要になる。
この循環に入ってしまうと、採用と教育をいくら強化しても、根本的な解決にならない可能性があります。
だからこそ、経営者には「誰を受け入れるか」という入口の判断をしてほしいと思っています。
これは入居者を選別するという話ではありません。
自分たちの施設が、
「どのような方に対して、どのようなサービスを、どのような体制で提供する施設なのか」
を明確にするということです。
入居率を上げることと、施設を安定して運営することは、必ずしも同じではありません。
経営者が見るべきなのは、入居率だけではなく、その入居率を現在の人員と仕組みで維持できるのかというところまでです。
強い施設は、職員の頑張りに頼りすぎない
私は、現場を運営する立場として、職員の頑張りだけに依存する施設を長く続けるのは難しいと感じています。
優秀な職員がいるから回る。
ベテランが何とかしてくれる。
管理者が判断してくれる。
こうした状態は、一見すると問題なく運営できているように見えます。
しかし、その人が休んだらどうなるでしょうか。
退職したらどうなるでしょうか。
事業所がもう一つ増えたらどうでしょうか。
そこで初めて、仕組みの弱さが表に出てきます。
だからこそ、
「誰を受け入れるのか」
「何を標準化するのか」
「職員がどこまで判断し、どこから先を看護師や管理者につなぐのか」
を決めておく必要があります。
職員教育を簡単にするというのは、教育を減らすことではありません。
職員が覚えるべきことを、施設側で整理することです。
そして、そのスタート地点にあるのが、入居対象者を明確にするという経営判断です。
現場を強くするために必要なのは、職員にもっと頑張ってもらうことではありません。
職員が迷わず働けるように、経営側が仕事の形をつくることです。
それが結果として、教育の負担を減らし、ベテラン職員への依存を減らし、介護施設そのものを強くしていくのだと思います。

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